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【自伝】俺がプロレスを好きになった理由 その⑥

 
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【前回までのあらすじ】
死んだおじいちゃんが好きだったプロレスをめぐる長い旅。19歳の俺はおじいちゃんの思い出である金曜8時のプロレスを探してレンタルショップをさまようも、悪魔の引力に引かれ手に取ったのはUWFインターのビデオであった。パンクラス、UFCと、おじいちゃんの好きなプロレスとはまるで逆方向へと足を進めていたそのとき、あの「新日本プロレス対UWFインターナショナルの全面対抗戦」が行われたのである。

 

 

1995年10.9東京ドーム『新日本プロレス対UWFインターナショナル 全面戦争』
メインイベント
武藤敬司 VS 高田延彦

 

実力主義の格闘技プロレス、Uインター最強の男である高田延彦がついに出陣!

たった一度、先日借りたトーナメント第一試合の山崎一夫戦しか見た事がない(しかも大して面白くなかった)くせに、まるでファンであるかのように高田を応援してしまっている俺。

「にわか」とはそういうモノである。

知っている人と知らない人が争えば、当然「知っているほう」に肩入れしてしまうのが世の常。

高田と武藤、彼らのプロレスも、歩んできた道も、この闘いにどんな意味があるのかも当時はまるで知らない。

俺にとっては単なるお祭り騒ぎであり、自分が格闘プロレスにハマったことが間違いではなかったことを確認するために観ているに過ぎない。

勝った方が最強。

つまり「最強」を名乗る高田延彦が、「最強」であることを証明するだけの非常にシンプルな闘いだ。

などと、当時の俺は何の疑いもなく思っていたわけだが、敵である新日本プロレスのチャンピオン武藤敬司の入場と共に俺の価値観がグラグラと揺らぎだす。

 

なんちゅうオーラだ。

 

高田のスター性も凄いが、この武藤という男の輝きは尋常じゃなかった。

まあ、それは別に「強さ」に直結する要素とは言えないので、この闘いにおける脅威にはなり得ないが。

とはいえ、試合直前の緊張感というか、会場の雰囲気はもちろんのこと、放送席のアナウンサーやゲスト解説のアントニオ猪木なんかさえも多少ナーバスになっている雰囲気は、にわか野郎の俺ですら「タダゴトじゃない」感を実感してしまうほどであった。

高田の勝利を確信していると言っても、相手もチャンピオンだし、ここまでの対抗戦でUインターの黒星が先行しているのもあって油断はできない。

ここは武藤のプロレスには付き合わずに、高田の得意なカタチで慎重かつ確実に勝利に繋げて欲しい。

なんてことを思っていたが、結果的にこの日は、新日本プロレスのほうがUインターの闘い方に付き合った形になっていた。

新日の選手たちは、Uインターの選手たちに引けを取らない見事なレスリングを魅せるのだ。

高田のタックルを危なげなく切る武藤、高田のバックをあっさりと取る武藤、高田に対してマウントポジションを奪う武藤。

なんか思ってた展開と違うんですけど!

グラウンドで高田と同格の動き(というかそれ以上)を見せたと思えば、ロープに飛んでその反動でエルボーを落としたり、ムーサルトプレスまで繰り出す武藤。

当然のようにどちらもかわされるが、この緊張感漂う場で新日のプロレスもしっかりと魅せてくる武藤の凄み。

高田を応援している俺のアタマは混乱の極みである。

格闘技プロレス、最強、真剣勝負、あれ?

いや、そんなはずはない。俺が追い続けている格闘技プロレスは最強のはずなんだ。

高田のハイキックが当たり出すと、やっと本領発揮かという安心感が湧いてくる。

打撃の鋭さこそが最強の証。

高田もそこに勝機を見出したのか、ここぞとばかりにハイキック&ミドルキックを散らしながら攻撃していく。

たまらずグラついた武藤に襲い掛かり、お得意の腕ひしぎ逆十字固めを狙うという勝ちパターン(といっても当時の俺が高田の勝ちパターンを知っていたとは言い難いが)に繋げるも、惜しくもロープに逃げられてしまう。

でも、きっと高田が勝つのは時間の問題だ。

 

いけ! 高田!

 

後から考えると、この瞬間、テレビのプロレス中継を見て必死に応援している俺の姿は、まぎれもなく “あの頃のおじいちゃん” そのものだったはずだ。

応援している側は正反対だけど、もしおじいちゃんが生きていたら、高田を応援する俺がいて、武藤を応援するおじいちゃんがいて、テレビの前がずいぶんと賑やかだったことだろう。

今、テレビの前で熱を帯びているのは俺ひとりだが、おじいちゃんの分まで、俺はプロレスを思いっきり楽しんでいた。

すっごく遠回りしたけど、おじいちゃんが愛したプロレスを、俺はついに見つけたのだ。

 




高田のキックが武藤に受け止められ、抱えた足ごと身体を回転させる武藤。

「ドラゴンスクリュー」という残虐な技である。

苦悶の表情を浮かべる高田が倒れこむ。

すかさず武藤は「足四の字固め」を仕掛ける。

プロレスが知らない人でも聞き覚えのある技。

男の子だったら一度はプロレスごっこで誰かに極められて悶絶したことのある技。

シンプルで、見栄えが良くて、めちゃくちゃ痛い技。

 

高田、無念のギブアップ負け。

 

最強の高田が、真剣勝負の格闘技プロレスが、武藤の新日本プロレスに負けた(しかもギブアップって・・・)

ショックのあまり呆然として、テレビのリモコンをぶん投げ、「なにやってんだよ! 高田!」などと罵り、その夜はずっと不機嫌な俺。

翌日、バイト先では新日ファンの先輩に大いにドヤ顔されるし。

散々だったこの週、俺は今まで立ち読みですませていたプロレス雑誌を初めて買った。

『週刊ゴング 10.9東京ドーム大会増刊号』

それを皮切りに、定期的にプロレス雑誌を買い続けることになるのだ。

 

あれから、相変わらずパンクラスに熱狂し、UFCの闘いに刺激を受け、K1なんかも楽しむ日々を過ごすが、実は新日本プロレスも気になって追い続けた。

大口叩いてブーイングを浴びまくったUインターの安生洋二が、キャラを生かして新日のリングで見事に立ち回っている姿に唖然としたり、最初借りたビデオではペーペーの若手だった高山善廣がその存在感を確立していく姿に感慨を覚えたり。

「最強」とか「勝負」とか、そんな単純な見方では測れない不思議な魅力があるなプロレスって。

 

数か月後、俺の一人暮らしの部屋に母親が掃除をしに来たが、散乱するプロレス雑誌を整理しながらこう言った。

 

「あんた、まるでおじいちゃんみたい」

 

子供のころは「あんな野蛮なもの見ちゃダメ」と、断固としてプロレスを見せてくれなかった母親が、なんとなくこのときは嬉しそうな表情に見えたのは気のせいだろうか。

 

 

 

おわり

 

長々とお付き合い頂きありがとうございました!

 

 

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Comment

  1. IPSILON より:

    デヴォンさんもUWFに魅了されてたんですね。あの闘い私も好きでした。

    >なんちゅうオーラだ。
    若い頃の武藤はヤバイです!

    >「なにやってんだよ! 高田!」などと罵り、その夜はずっと不機嫌な俺。
    同じです、テレビ前で怒声上げましたw 再放送だと消されてますが「高田ぁ! 前田が泣いてるぞ!」という野次が飛んでいたはず。UWFが負けたのは悔しいですが「まあ高田じゃ仕方ない。けど前田ならそうはいかないぞ新日本」という心境でした。
    新日時代、ジュニアヘビーで越中と抗争してた高田が、Uインター設立後に「世界最強の男!」と肩書き付けた時「はあ? 何言い出すのこの人」と思ってましたので。

    高田が1番輝いたのは北尾光司をハイキックでKOした瞬間。「ブック破り」という説もありますが、観客の目の前で倒してしまえば勝ちですよ。
    もし、武藤との試合で「シュート」を仕掛けたらどうなったか? 経営不振に陥ったUインターを救う為、新日本から提示された高額ギャラで負けたと言われてますけど。自分の肩に若手の生活かかってるなら止むを得ないのか。

    この後、ヒクソンに負けた時も「この恥さらし!」とボロカスに罵倒してましたが。高田さんは根が真面目なのでしょう、ブチ切れた怖さが足りない欠点がありながら、周囲の期待を背負い無理してた。ガンダムに例えるなら普通の人が凄い努力を重ねて、強化人間やニュータイプの超人と戦っていたようなもの。年取ったら高田さんの苦悩が判り再評価しています。

    • devonyamaoka より:

      どうも! 武藤さんのオーラは初心者にも十分伝わる凄さがありましたよね。もちろん今もありますが、当時のスター然とした輝きは圧倒的でした。
      高田への失望はみんな同じだったんですね。俺は「まだ船木が負けてないから大丈夫」でしたw
      北尾戦については後に知ったのですが、ヒクソン戦は当然リアルタイムで見て、その不甲斐なさに愕然としたのも同じw
      高田さんは理性的ですよね。だからこそそれが魅力だったんだと思いますし、同時に器用さも持ち合わせていたので、その後のタレント的立ち位置もそつなく出来たんだろうなって思います。どちらにせよ激動の半生ですよね。いまは政治がらみのツイートで再び叩かれておりますがw

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