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【自伝】俺がプロレスを好きになった理由 その⑤

 
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【前回までのあらすじ】
死んだおじいちゃんが好きだったプロレスをめぐる長い旅。19歳の俺はおじいちゃんの思い出である金曜8時のプロレスを探してレンタルショップをさまようも、悪魔の引力に引かれ手に取ったのはUWFインターのビデオであった。おじいちゃんのプロレスとはまるで違うその姿に混乱し、さらなる間違いを犯してしまう俺。パンクラス、UFCと、まさにいくべき道とは逆方向へと足を進めていたそのとき、事件は起きた。

 

「なんでそっちに行っちゃったんだよ」

 

バイト先の先輩が俺に言う。

それもそのはず。

「俺もプロレス見てみます!」とか勢いよく言い放った末に「パンクラス」にハマって格闘技方面に興味を持ってしまったんだから。

先輩からしたら、かわいい後輩がプロレス好きになる姿を微笑ましく見守って、たまには一緒に観戦したり、得意の知識を披露したりもしたかったことだろう。

まるで、会社内で仲間を増やすために気に入った後輩を別の部署から引き抜いたはいいが、そいつが勢い余って違う派閥に入ってしまったかのような大誤算だったはず。

しかし、そんなこと知ったこっちゃない俺は、夢中になれるエンターテインメントを新たに得た歓びでいっぱいの状態で、たった一か月もしない間に、既存のパンクラスの試合をすべてビデオで観戦。

旗揚げからそれほど経っていない団体だったこともあり、あっという間に最新の状況に追いついてしまった。

 

「パンクラス」は知れば知るほど魅力的な闘いである。

打撃とサブミッションが主体で、KOもしくはギブアップで勝敗が決まるというシンプルなルールながら、ダウンとロープエスケープを奪えばポイントが追加され判定に有利という部分が実にスポーツ的である。

あのとき見たUインターの試合とベースは似ている気がするが、大きく異なるのはそのスピード感。

タックルしてテイクダウンを成功させてからサブミッションで極めるまでの流れがあっという間だったり、レスリングする間もなく打撃のみであっさりKOしたり、とにかく決着が早いのだ。

かかる試合時間が数秒から1,2分という短時間で、これがまさに「秒殺」というやつ。

 

「秒殺」

なんという甘美な響きであろうか。

年がら年中、中二病をこじらせている俺にとっては刺激的なワードすぎて、これもハマる要因のひとつでもあったのは明かである。

パンクラスの旗揚げ戦では全5試合が行われたが、全試合の合計がわずか13分というとんでもない大会となった。

興行が13分で終わっちゃうのヤバくないですか?

とにかく、“裸でタイツ姿のレスラーがリングの上で試合をする” という部分以外は、プロレスとはまるで違うスポーツであるこの「パンクラス」に魅了されて数か月。

ある日、そのバイト先輩が俺にこう言った。

 

「10.9東京ドームはどっちが勝つと思う?」

 



 

思わず笑いそうになってしまった。

10.9東京ドームとは、新日本プロレスとUWFインターナショナルによる全面対抗戦が行われる興行である。

「パンクラス」にハマってから、格闘技系の雑誌などもコンビニで立ち読みするようになっており、当然そんな情報もチェックしていた。

だが、俺にとってはまったくの対岸の火事でしかなく、「どっちが勝つか?」などという話は愚問でしかなかった。

 

Uインターが勝つに決まっているからだ。

 

それも圧倒的な実力差を魅せつけての全勝。

生まれて初めて自主的に観たUインターのビデオは面白くなかったけど、格闘技プロレスとして最強を求めていた高田延彦の向上心のようなものは感じ取れたし、つまりUインターは、パンクラス同様に実力主義のプロレスを行っている団体であると認識していた。

新日本プロレスをちゃんと見たことはなかったが、イメージとして “派手な魅せ方にこだわったエンターテインメント要素の高いプロレス” って感じだし、格闘技のような競技性があるスポーツとは思えない。

「Uインターの全勝でしょう」

などと、新日本プロレス好きの先輩に残酷な現実を突きつけてしまうほど俺は空気の読めない人間ではないので、「いやあ、どうでしょうね」などと応えお茶を濁す。

この大会のメインイベントは 武藤敬司 VS 高田延彦 となっており、当時の団体トップ選手同士の一騎打ち。しかもこれ、IWGPヘビー級選手権試合だったのだ。

もちろん、この当時はIWGPベルトの価値も知らなければ武藤の試合も一切見た事がない俺なので、この試合の本当の意味での凄さはわかっていなかった気がする。

とはいえ、試合の重要性というか、世界観の違うモノ同士が相まみえるというスリルは十分感じてはいた。

新日とUインターが東京ドームでの対抗戦に至るまでの過程はよくわからないが、たとえUインターが圧勝したとしても、無謀にもそこに挑んだ新日本の覚悟は賞賛に値するだろう。

といった、完全なる上から目線の心境だった俺。

数か月前に、ぼんやりとプロレスを求めて、間違ってUインターのビデオをレンタルしてしまっただけでなぜここまで調子に乗れるのか疑問である。

もしタイムマシンがあれば、学生時代のクソ生意気な俺自身をぶっ飛ばしに行きたいくらいだ。

この日の試合はテレビ中継が行われたわけだが、パンクラスファンとしては、半ば冷静な感じで「まあ見てやるか」みたいな余裕をぶっこいてテレビ観戦をした。

Uインターが問答無用で勝つことは確信していたので、応援するというよりは、“試合結果を確認する” ために観ていたようなものである。

今思えば、こんな「運命のイタズラ」があるだろうか。

死んだおじいちゃんの好きだったプロレスを求めてさまよい、間違った選択を重ねて思いっきり逆方向の道へと歩んでしまったのに、この日、ついにまったく別の立場として「おじいちゃんと見たプロレス」に再会したのだ。

おじいちゃんが生きていたなら、新日本プロレスを思いっきり応援していただろう。

人生とは本当にうまくいかないものである。

 



 

1995年10.9東京ドーム『新日本プロレス対UWFインターナショナル 全面戦争』

メインイベント
武藤敬司 VS 高田延彦

高田の勝利を確信していたはずなのに、開始直前から異様な緊張感が俺を襲う。

 

あれ? なんだろうこの感じ・・・。

 

自分の価値観が揺らぐこの感じ・・・。

 

 

安生洋二「210%勝てる」

 

 

うるせえ。

 

 

つづく(もうすぐ終わります)

 

 

 

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